本記事は、「Fediverse Advent Calendar 2020」第3会場の11日目の記事です。
今回は、わたくし・テルミナが、分散型SNSプラットフォームの一つ「Mastodon」を用いて設置したリベラル(自由主義者)向けコミュニティ「LIBERA TOKYO」およびその前身となった「LIBERA」「LIBERA S2」(いずれも現存せず)をこれまで運用してきた経験を元に、「特定の思想信条を主題とするコミュニティを運営するに当たって」押さえておきたい点を記載致します。
なお、「LIBERA TOKYO」等の主題となっている自由主義思想に関する話は必要最低限にとどめ、出来るだけ一般論として書いたつもりです。思想信条の合わない方にとっても、何かしら参考になれば幸いです。
はじめに
まずは、私が運営しているコミュニティ「LIBERA TOKYO」につきまして、簡単に説明致します。
冒頭で述べましたとおり、「LIBERA TOKYO」はリベラル(自由主義)の政治思想を持つ方々を対象としております。ほかの大手SNS(主にTwitter)で政治に関する話をしづらくなった方々を中心にお越しいただいていますが、残念ながらコミュニティの規模としてはまだまだ拡大の余地があります。
しかしながら、管理者の私・テルミナ(@Telmina@libera.tokyo)本人は、実は政治の話は不得手です。ではなぜそんな人間が政治系のコミュニティを運営しているのかと言いますと、大きく次の2点が理由となります。
- 政治に興味がないと言い続けているうちに、日本の政治が大多数の国民に向かなくなってしまった。
- Fediverseを眺めていても、日本語圏でリベラルを対象としたコミュニティを運営する人が他にいなかった。
特に2番目は日本固有の事例と言えるでしょう。
海外であれば、わざわざリベラルを公言せずとも、当たり前のものとして利用規約に「ヘイトスピーチ禁止」や「極右思想お断り」のような文言が含まれています。いわば、リベラル的な空気が当たり前のように出来ているのです。そもそも、「Mastodon」の生みの親であるオイゲン・ロホコ氏はドイツ人で、ドイツといえばナチスという負の歴史を抱えていますので、なおさらそのような流れになっているものと思われます。
しかし、日本では残念ながらそのような流れになっているとは言えません。一応、私が2017年秋に初代「LIBERA」を立ち上げるより前から、別の方により「Antifa」をテーマとしたコミュニティがあったことにはあったのですが、いつの間にか終息してしまっていたようです。
もとより、Twitter等でリベラルな政治思想を持つ人々が迫害されているのを眺めてきており、私自身も何度も思想信条の合わない者たちから嫌がらせを受けて参りましたので、Fediverseにリベラル向けコミュニティがないなら自分で作ってしまえと言うことで、2017年秋に初代「LIBERA」を、そして2018年3月11日(この日付は狙いました)に2代目「LIBERA S2」、そして今年の6月7日に3代目となる現行「LIBERA TOKYO」を設置致しました。
政治思想系コミュニティで起こりうる問題点と利用規約
特に日本では、ある思想信条を掲げると、必ずと言っていいほど妨害が入ってきます。
実際に、初代「LIBERA」を設置したら、早速不適切な動画の連続投稿による運営妨害が目立ちました。
また、登録ユーザが管理者をブロックした上でスパム発信源とするような行為もありました。
それらを踏まえ、「LIBERA TOKYO」では、利用規約に数多くの禁止事項を謳っております。
その中でも、他のコミュニティの大半ではまず見られないであろうものとして、下記を挙げられます。
- 第5条(禁止事項)
- 4. 管理者,本サービスの他のユーザー,または第三者に対する脅迫行為
- 5. 管理者のアカウントをブロックする行為
- 6. 管理者のサービスの運営を妨害するおそれのある行為
第5条の第4項については、残念ながら「LIBERA TOKYO」設置後に当サーバのユーザによる違反行為がありました。さらに第5項への違反もあり、当該ユーザに対してはしかるべき措置を致しました。
第5条の第5項および第6項は、まさに初代「LIBERA」で被った実害が元になっています。通常、コミュニティを運営するに当たっては、第5項のような禁止事項はむしろ付けない方がよいのですが、特定の思想を扱っているコミュニティの場合、特に日本国内では容易に妨害が入るため、このような禁止事項は残念ながら必要になります。もちろん、利用規約に謳うだけでは抑止力にはなりませんので、定期的に管理者による確認作業は必要となりますが。
また、下記については、以前私が参加していた他のコミュニティで発生した問題行為が元になっています。
- 第5条(禁止事項)
- 14. 投稿者本人以外による発言(SNS、ブログ等)が含まれるスクリーンショットをサービス上に投稿する行為(以下略)
スクリーンショットの画像は、少々の知識とツールのある人であれば容易にねつ造が可能です。ですので、スクリーンショットを貼るならその根拠を示せということです。もっとも、これについては実は現状の「LIBERA TOKYO」でもかなりザルになっているのですが…。
ほかにもまだまだあるにはあるのですが、政治思想系コミュニティを運営するに当たっては、禁止事項に、最低でも脅迫行為や管理者へのブロックを含む運営妨害行為、根拠を示さないスクリーンショットの投稿は含めておくべきです。
逆に、テーマとする思想信条に反する思想信条を名指しで禁止するのは好ましくありません。「LIBERA TOKYO」でも「ネット右翼お断り」のような文言は規約に盛り込んでいません。そもそも「ネット右翼」とか、あと「リベラル」という言葉もそうですが、その手の言葉は読み手によって解釈が違ってきますので、規約に盛り込む意味がありません。禁止事項を掲げるなら、極端に抽象的な表現は避けるべきでしょう。
政治思想系コミュニティにおいて門戸をどれほど開放すべきか
他のプラットフォームについては存じ上げませんが、「Mastodon」では、2020年12月現在の最新安定版であるv3.2.1の時点で、コミュニティへの新規ユーザ登録について、次の通り設定可能です。
- 新規登録
- 誰でも登録可
- 登録には承認が必要
- 誰にも許可しない
- 招待の作成を許可
- 誰にも許可しない
- ユーザー
- モデレーター
- 管理者
私が初代「LIBERA」を設置した2017年秋の時点では、まだ「登録には承認が必要」という選択肢がありませんでした。これも運営妨害を容易にする一因でした。
現在、「LIBERA TOKYO」では、新規登録では「登録には承認が必要」、招待状の作成は「ユーザー」に許可という形を取っております。
大抵のFediverseのコミュニティでは、そもそも新規登録に承認制を採用していないところが多く、承認制に変更する場合でもスパム対策の一環としてやむを得ず採用するというケースが多いと思います。ユーザへの間口を広げる、登録に対する抵抗感を和らげるという意味では、承認制など採用しないほうがいいということはわかっています。
しかし、何度も述べているように、特に日本では、政治思想系のコミュニティには必ずといっていいほど妨害が入ります。それを少ない労力で(ある程度)予防するためには、承認制の採用は不可欠です。それでもスパム登録を試みるような大胆な者もいたりするのですが…。しかも、単に承認制を適用するだけでは、承認制採用時に登録フォームに出現する「意気込み」入力欄を空欄にしたり、空白と変わらない意味のない文言だけ入れて登録しようとしてくる者も出てきますので、意気込み欄にちゃんと意気込みを入れてもらうように、トップページで注意喚起をする必要があります。
もしコミュニティ設置者にネームバリューがあり(あいにく私にはないが)、黙っていても人が寄ってくるのであれば、そもそも新規登録を許可せず、招待状の発行を受けた者のみ登録可としてしまうほうが楽です。そうすればそもそも問題を起こしそうなユーザは近寄ることすら出来ません。しかし、これは諸刃の剣で、運営の仕方次第では、コミュニティの運営者もしくは特定の常連を信奉してしまう取り巻きにコミュニティが乗っ取られ、ほかの常連がしらけてコミュニティから離脱し、残った者たちだけで先鋭化してしまうという危険性もはらんでいます。Twitterとかにもいますでしょう、特定の政治家を絶対視して何か問題が起きても総括も反省もしないのが。
そういったことがありますので、ユーザ登録の招待制一本化は、ほかのあらゆる対策をとっても運営に支障を来す場合の最終手段とした方がよいでしょう。
なお、「LIBERA TOKYO」で招待状の発行をユーザレベルで許可しているのは、残念ながら、私が動くよりも私よりもはるかに発言力も説得力もある方に動いていただくほうが、結果的にコミュニティを盛り上げることに繋がると判断したからです。実際にTwitterで私がいくら「LIBERA TOKYO」の宣伝をしても、ぜんっぜん反応がありませんからね…。
これについては本当にケース・バイ・ケース。とはいえ、政治思想系のコミュニティでは、「誰でも登録可」と「招待制オンリー、なおかつ招待状発行権は管理者のみ」だけはやってはなりません。これからその手のコミュニティを立ち上げる方は、最初はゆるめ(承認制、招待状はユーザレベルで発行可、等)で始めて、問題が起きたり起きそうになったりしたときに厳格化を検討してからでも遅くはないでしょう。
アカウント削除と凍結にまつわる問題
これも過去に、私が参加していたコミュニティで実際にあったことですが、特定人物に対して悪意のあるアカウントで何か問題発言をして、管理者が警告を発したところ、悪意あるユーザはがすぐにアカウントを削除してしまい、そのときに悪事の証拠として必要な情報まで消えてしまった、なんてことがありました。
これを踏まえ、「LIBERA TOKYO」では、悪意あるユーザの逃亡を防ぐために、ユーザ自身によるアカウント削除を禁止しています。そして残念ながら、この措置は効力を発揮しています。
ユーザによって自発的にアカウントを削除されてしまうと、問題発言やIPアドレス等の情報まで消えてしまうため、特に政治思想系のコミュニティではアカウント削除機能の開放は御法度です。
また、管理者(およびモデレータ)権限による特定アカウントの停止も、対象が悪意あるユーザで悪事の証拠を残したいときに都合の悪いモノになります。「LIBERA TOKYO」では、アカウント停止の代替措置として、サイレンス&ログイン無効化という措置を執ることにしましたが、どうもこれも「事実上の凍結」というわけではないようです。
もっとも、Mastodonの(執筆時点で)次期バージョンとなるv3.3.0では、アカウント停止周りが大幅に改善される模様です。停止後30日間は情報を保持し続けるようになるとのこと。
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これであれば、必要な情報の魚拓だけとってアカウント停止措置を執っても問題ないでしょう。とはいっても、これが「ユーザによる自発的なアカウント削除」の時にも効力を発揮するかどうかは、よくわかりません。もし効果があるのであれば、v3.3.0導入以降はユーザによるアカウント削除を開放してもいいかもしれません。
サーバおよびメールのドメインブロックは慎重に
これを言い出すと身も蓋もないのですが、ドメインブロックには正解はありません。扱うテーマや、コミュニティを実際に運用し始めてからの経験により、大きく違ってくるからです。
一応、「LIBERA TOKYO」でサーバのドメインブロック対象に加える基準については書くことにしますが、正直申し上げてその基準がすべてではありませんし(特に初代「LIBERA」や先代「LIBERA S2」で追加した大量のドメインブロックの理由なんていちいち覚えていない)、これがすべてのケースにおいて正解というわけではありません。あくまで参考程度に。
- 思想信条的に相反する内容を主題としており、意思疎通の確立が著しく困難と判断した対象
- 思想信条にかかわらず、悪意あるユーザを放置、容認している対象
- ただし一部の大規模コミュニティは除外
- Mastodonの旗艦サーバである「mastodon.social」および「mastodon.online」にて「停止済みのサーバー」に指定されている対象
なお、「LIBERA TOKYO」では、かなり問題のあるユーザが放置されているサーバであっても、一部の大規模サーバはドメインブロック対象から外しています。余談ですが、私が運営するサーバの中に、政治思想をテーマとしていないものの、大規模コミュニティを意図的にドメインブロックしている「まいった〜」というサーバもありますので、ご興味のある方は是非ご参加ください。
メールのドメインブロックは、スパム発信源となっているところの情報を集めて片っ端からブロックするという対症療法になってしまっています。ここで注意しなければならないのが、登録時に「ドメインのMXレコードとIPアドレスを含む」にチェックを入れて登録したときに、たまにGoogleやYahooのサービスのIPアドレスまで塞いでしまうことがある点。それらのサービスをブロックしたくなければ、面倒ではありますが、一度チェックを入れて登録したあとIPアドレスの情報「だけ」を消すか、初めからチェックを入れずに都度登録するかのどちらかにするしかありません。実は、「LIBERA TOKYO」を立ち上げて間もないときに、「LIBERA S2」から引っ越ししようとしていたユーザさんから「メールアドレスを登録できない」と苦情が来てしまい、調べてみたらGoogleやYahooのサービスまで塞いでいたというオチでした。
副管理人やモデレータの任命は勧められない
規模がある程度大きくなったり、管理者が多忙になったりすると、副管理人やモデレータといった役割の方を採用したくなると思います。
これそのものは、コミュニティの安定運用の点からはあってしかるべきで、Mastodon本家でも推奨されているのですが、日本語圏を対象にした政治思想系のコミュニティに限っていえば、残念ながら副管理人やモデレータの任命は勧められません。
理由は簡単で、任命した人物に悪意がある場合、コミュニティの安定運用どころか内部から破壊される危険性があります。特にリベラル(自由主義者)の集まりの場合、裏で反リベラルと繋がっている人物がコミュニティを攪乱するということが往々にして起こりえます。味方のふりして近づいてきた人物が実は敵だったなんてこと、一度や二度の話ではありません。
当然ながら、「LIBERA TOKYO」でも副管理人やモデレータは採用していません。実際に、先代コミュニティ「LIBERA S2」時代からの常連の中にも、とてもではないがモデレータなど任せられないような人物がいましたし。また、そこまで怪しい人物でなくても、味方のはずの人物が敵だったという経験を何度もしている関係で、モデレータ権限など怖くて渡せません。
政党や政治団体、市民団体のように確実に信用できてなおかつ技術にも明るい人間がいる場合は、もちろん複数管理人制や副管理人、モデレータの採用などを大いに検討すべきです。しかし、個人運営のコミュニティにおいて顔も見たことのないような人物に強力な権限を渡すのは自殺行為です。
それよりも、似たような思想信条を主題とするコミュニティの数そのものを増やした方がいいかもしれません。そうすれば、あるコミュニティにおいて、ユーザが居心地の悪さを感じたりそこの運営方針に賛同できなくなったりした場合でも、そのユーザは似たような主題の別のコミュニティに引っ越すことが出来ます。むしろ、コミュニティに居心地の悪さを感じた方こそ、自ら新たなコミュニティを構築して欲しいです。
異なる思想同士の討論の場は日本では無理
何度も述べているように、わたくし・テルミナはリベラル(自由主義者)向けのコミュニティを運営しております。
しかし、これはあくまで特定の思想信条をお持ちの方向けのコミュニティであり、考えの異なる方にとっては非常に入りづらいものと思われます(少なくとも「LIBERA TOKYO」では意図してそのようにしています)。
ディベートという概念が根付いている方であれば、「異なる思想の持ち主同士で討論し合ってお互いによりよい意見を出し合う」ためのコミュニティを欲しいと思うかも知れません。
しかし、残念ながら日本ではこれは不可能です。そもそも、相手を言い負かして論破することを議論だと思い込んでいるのが多すぎます。そこによりよい意見を出し合うなどという精神はありません。それどころか、そのような行為は相手の人格否定とセットになることも少なくなく、実際に私もネット右翼と極左の双方から人格を否定されてきています。
たぶん、日本で「異なる思想の持ち主同士で討論し合ってお互いによりよい意見を出し合う」場など作ろうものなら、閑古鳥が鳴くか大荒れするかのどちらかになるでしょう。それこそ24時間365日つきっきりで管理できる態勢を整えないと、コミュニティの維持すらままなりません。少なくとも私にはその手のコミュニティの管理など無理です。
それでも、その手の討論の場を作ろうと考えている方がいらっしゃるのであれば、挑戦してみるのもいいかもしれません。実際にやってみて体で感じないとわからないこともありますからね…。ただ、自分はやりたくありません。
最後に
今回は、わたくし・テルミナの経験を元に、政治思想系のコミュニティを運営するに当たっての留意点を書き出してみたつもりです。
とはいえ、実際に運営してみないとわからない点も多々あろうかと思われます。
Fediverseの日本語圏では、残念ながらこの手のコミュニティはあまり流行りません。Twitter等で特定の思想信条を持つユーザがどんなに迫害されても、その中からFediverseに目を向けようとする人そのものがごくわずかしかいないのが現状です。
しかし、代替コミュニティもしくは避難所という使い方でもいいので、まずはその手の方々にFediverseにお越しいただきたいと思いますし、特に精力的に活動されている個人や団体には、自力でFediverseのサーバを立てて欲しいとも思います。
同じようなテーマのサーバが複数立ってもいいと思いますし。
本稿が、政治思想系のコミュニティの増加、ひいてはFediverse全体の発展の一助となれば、幸いです。